自転車

週末に自転車で荒川を見にいくーー。

 

東京へ来て、いろんな人からいろんな鍵を手渡された。自分の借りた部屋の鍵、友人宅の鍵、会社に出入りする鍵、恋人の部屋の鍵。キーホルダーに下がった束はどれも自分のものではなく、その時が来たら誰かに返すものばかりだけど、自転車の鍵だけは自分のものだということに思い至って嬉しくなった。借りたものを全部返しても、自転車に乗ってどこかへ行くことはできるわけだ。

 

週末に自転車で荒川を見にいく、というよく分からない予定に人を誘ったのは、このよく分からない感慨のせいだ。「帰るとこなんかより行くとこの有る無しが大事だよ」と話すマルメラードフにいたく共感したのは、18歳の時だった。世界中どこであっても、自転車に乗るのはある種の定点観測なのです。